睡眠研究の第一人者として知られる、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)機構長の柳沢正史教授。
柳沢教授は、覚醒を維持する神経ペプチド「オレキシン」の発見と、その欠乏がナルコレプシーにつながることの解明などで睡眠研究を大きく前進させてきました。2026年9月には、エマニュエル・ミニョ氏とともにアルバート・ラスカー基礎医学研究賞を受賞しています。
そんな柳沢教授が座右の銘として掲げているのが、「真実は仮説より奇なり」。さらに、「良い問いを見つけることは、問いを解くことより難しい」も座右の銘の一つだと本人が語っています。
この記事では、筑波大学などの公式資料や本人インタビューをもとに、柳沢正史教授の名言・座右の銘と、その言葉から見える研究への姿勢を紹介します。
柳沢正史の座右の銘は「真実は仮説より奇なり」
真実は仮説より奇なり
柳沢正史教授が、自身の座右の銘として明言している言葉です。
筑波大学が2018年に公開した朝日賞受賞時のスピーチで、柳沢教授は「私の座右の銘は『真実は仮説より奇なり』」と語っています。
この言葉は、「事実は小説より奇なり」を思わせますが、柳沢教授の場合は「仮説」よりも「真実」を上に置くところに研究者としての考え方が表れています。
人間が考えた仮説に現実を合わせるのではなく、目の前に現れたデータを受け入れる。その姿勢が、予想もしなかった睡眠研究へとつながりました。
出典:筑波大学「柳沢正史教授が2017年度朝日賞を受賞」(2018年1月31日)
予想外の結果から「オレキシン」と睡眠の関係が見つかった
「真実は仮説より奇なり」を象徴するのが、柳沢教授の代表的な研究成果であるオレキシンです。
オレキシンは、柳沢教授らが発見した神経ペプチドです。当初は摂食との関係が注目されましたが、遺伝子を欠損させたマウスを観察すると、予想していなかった異常が見つかりました。その後、オレキシンが覚醒状態の維持に重要で、その欠乏がナルコレプシーにつながることが明らかになっていきます。
ラスカー財団も2026年の受賞理由として、オレキシンの同定と、オレキシン欠乏がナルコレプシーの制御不能な睡眠を引き起こすことの発見を挙げています。
自分が立てたストーリーより、実験で現れた事実を優先する。「真実は仮説より奇なり」は、柳沢教授自身の研究人生から生まれた言葉といえます。
出典:Lasker Foundation「Orexin—a brain peptide that maintains wakefulness」/筑波大学「柳沢正史教授が2017年度朝日賞を受賞」
もう一つの座右の銘「良い問いを見つけることは、問いを解くことより難しい」
良い問いを見つけることは、問いを解くことより難しい
柳沢教授が「座右の銘の一つ」として挙げている、もう一つの言葉です。
2026年9月24日に公開された旺文社「パスナビ for School」のインタビューでも、柳沢教授本人がこの言葉を紹介しています。
研究では、難しい問題を解く能力だけが大切なのではありません。そもそも「何を問うのか」が重要だという考えです。
柳沢教授が睡眠研究で追い続けているのも、「眠気とは何か」「なぜ眠らなければならないのか」という、一見すると誰もが知っていそうで、実は科学的には十分解明されていない根源的な問いです。
出典:旺文社 パスナビ for School「シリーズ 知の探究者/No.012 柳沢正史先生(後編)」(2026年9月24日)/筑波大学「柳沢正史教授が2017年度朝日賞を受賞」
柳沢正史の研究・挑戦への考え方が分かる言葉
「私は勇気のある人が好きですね」
私は勇気のある人が好きですね。
筑波大学の研究者インタビューで、柳沢教授が若い研究者について語った発言です。
ここでいう「勇気」は、単なる精神論ではありません。柳沢教授は続けて「専門的度胸」という言葉を紹介しています。英語では「Technical Courage」。自身のテキサス時代の師であるジョー・ゴールドスタイン氏の言葉を、柳沢教授がこう訳したものです。
一度取り組むべき問題を決めたら、自分の専門分野に閉じこもらず、必要なら新しい技術や分野にも飛び込んでいく。その姿勢を評価しています。
出典:筑波大学「Drive the Change そしてみらいへ―これからの研究と研究者」柳沢正史先生
「真に面白い」研究に挑戦する
「真に面白い」研究に挑戦する
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構のトップメッセージで、柳沢教授は、所属する研究者がキャリアの段階にかかわらず「真に面白い」研究に挑戦することを常に奨励する環境をつくると述べています。
「役に立つか」だけから研究テーマを選ぶのではなく、まだ誰も答えを知らない問いそのものに向き合う。座右の銘である「良い問いを見つけることは、問いを解くことより難しい」ともつながる考え方です。
出典:筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構「トップメッセージ」
「好奇心が何よりのモチベーション」
好奇心が何よりのモチベーション
医学書院のインタビューでは、柳沢教授の研究者としての姿勢が、この言葉を掲げたタイトルで紹介されています。
柳沢教授は医学部を卒業した後、臨床医ではなく研究者の道へ進みました。大学院時代には血管収縮因子「エンドセリン」を発見。その後アメリカへ渡り、さらにオレキシンの発見へと研究を広げています。
最初から「睡眠研究者」になる道筋が決まっていたわけではありません。面白い現象や未知の問題を追い続けた結果、睡眠という大きな謎へたどり着いたことが分かります。
出典:医学書院「この先生に会いたい!!―『好奇心が何よりのモチベーション』人はなぜ眠るのか、睡眠覚醒の謎に挑む」(2017年1月9日)
柳沢正史が研究者を目指した理由が分かる言葉
「今日の患者ではなく、明後日の患者を治したい」
今日の患者ではなく、明後日の患者を治したいから
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の研究者紹介で、「なぜ研究を志したのですか?」という問いに対して掲げられている言葉です。
柳沢教授は、小学校1年生のころから将来は研究者になりたいと言っていたと振り返っています。大学では医学部へ進みましたが、卒業時に臨床医ではなく基礎研究者になる道を選びました。
目の前の患者を診る臨床医学とは違う方法で、未来の医学を変える研究をする。その選択を端的に表した言葉です。
出典:筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構「柳沢正史 メンバー紹介」
2026年にも続く「眠気」という根源的な謎への挑戦
人間はなぜ眠くなるのか、この“眠気”という根源的な謎に挑んで参ります。
2026年4月、柳沢教授が筑波大学初の「卓越フェロー」の称号を授与された際に語った言葉です。
オレキシンを発見し、世界的な賞を受けても、研究は「完成」したわけではありません。
柳沢教授が率いるIIISでは、「眠気」の神経科学的な実体とは何か、そもそもなぜ人は眠らなければならないのかという問題を、現在も大きな研究テーマとして掲げています。
出典:筑波大学「初の“卓越フェロー” 睡眠研究の柳沢正史教授へ授与」(2026年4月16日)
柳沢正史の言葉から見える4つの考え方
1.自分の仮説より「事実」を大切にする
「真実は仮説より奇なり」という座右の銘の根底にある考え方です。予想と違うデータが出たとき、それを邪魔な結果として扱うのではなく、そこに新しい発見が隠れている可能性を考える。オレキシン研究は、その姿勢を象徴しています。
2.答えを出す前に「良い問い」を探す
「良い問いを見つけることは、問いを解くことより難しい」。柳沢教授が現在も向き合っている「なぜ眠るのか」「眠気とは何か」は、その代表例です。簡単には答えが出ないからこそ、研究する価値のある問いになります。
3.専門の外へ出る「度胸」を持つ
柳沢教授が語る「専門的度胸」は、自分の得意分野だけで安全に研究するのではなく、問題を解くためなら新しい領域にも入っていく姿勢です。「自分に何ができるか」より「この問題を解くには何が必要か」を優先する考え方といえます。
4.好奇心から「真に面白い」ことを追う
研究を「すぐ役に立つか」だけで評価せず、まだ誰も知らないことを知ること自体に価値を見いだす。小学生のころから自然現象を観察していたという柳沢教授の好奇心は、現在の睡眠研究にもつながっています。
2026年の柳沢正史|ラスカー賞を受賞
柳沢正史教授は、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の機構長・教授を務める睡眠研究者です。筑波大学医学専門学群、大学院医学研究科博士課程を修了し、1991年に渡米。テキサス大学サウスウェスタン医学センターなどで長く研究室を主宰した後、筑波大学に研究拠点を築きました。
2026年9月9日には、エマニュエル・ミニョ教授とともにアルバート・ラスカー基礎医学研究賞の受賞者として発表されました。評価されたのは、覚醒維持を促す神経ペプチド「オレキシン」の発見と、オレキシン欠乏によってナルコレプシーが発症することの解明です。
ラスカー財団は、この研究が睡眠の本質的理解に重要な洞察をもたらしたとしています。柳沢教授は2023年にも生命科学分野のブレークスルー賞を受賞しており、2026年4月には筑波大学初の「卓越フェロー」に選ばれました。
なお、2026年のノーベル生理学・医学賞は10月5日に発表予定ですが、ノーベル財団は候補者名を事前には公表していません。そのため、本記事では柳沢教授を「2026年ノーベル賞候補」と断定せず、公式に確認できる受賞歴と本人発言のみを掲載しています。(2026年10月5日現在)
最新情報確認:筑波大学「2026年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞」/Lasker Foundation「2026 Winners」/筑波大学IIIS「柳沢正史 メンバー紹介」
まとめ|柳沢正史の座右の銘は「真実は仮説より奇なり」
柳沢正史教授の言葉を追うと、世界的な研究成果の背景にある考え方が見えてきます。
- 座右の銘は「真実は仮説より奇なり」
- 「良い問いを見つけることは、問いを解くことより難しい」も座右の銘の一つ
- 自分の仮説より、目の前のデータを大切にする
- 研究者には専門分野を越える「専門的度胸」が必要だと考える
- 「真に面白い」研究への挑戦を重視する
- 「今日の患者ではなく、明後日の患者を治したい」という思いで基礎研究の道を選んだ
- 2026年も「眠気」という根源的な謎への挑戦を続けている
「真実は仮説より奇なり」という言葉は、予想外の結果を失敗と決めつけず、そこから新しい問いを見つける姿勢を表しています。オレキシンという予想外の発見から睡眠研究の新しい領域を切り開いた柳沢教授だからこそ、説得力を持つ座右の銘です。
主な確認資料
- 筑波大学「柳沢正史教授が2017年度朝日賞を受賞」
- 旺文社 パスナビ for School「シリーズ 知の探究者/No.012 柳沢正史先生(後編)」(2026年9月24日)
- 筑波大学「Drive the Change そしてみらいへ―これからの研究と研究者」
- 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構「柳沢正史 メンバー紹介」
- 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構「トップメッセージ」
- 筑波大学「初の“卓越フェロー” 睡眠研究の柳沢正史教授へ授与」(2026年4月16日)
- 筑波大学「2026年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞」(2026年9月9日)
- Lasker Foundation「Orexin—a brain peptide that maintains wakefulness」
- 医学書院「この先生に会いたい!! 柳沢正史氏」
